STORY開発ストーリー

アマノの座位入浴装置(腰掛けた姿勢で入浴するタイプの入浴装置)を代表するASシリーズが約8年ぶりとなるモデルチェンジを果たし、新たに誕生した『AS300 / マルチモーションチェアバスルーミィ』。開発にあたり課せられたミッションは、シリーズの特長を引き継ぎながら機能をグレードアップさせ、“市場で戦える浴槽を作ること”でした。
企画からアフターサービスまで一貫した体制でモノづくりを行うアマノでは、企画や設計、営業など様々な部が一体となって製品開発に取り組みます。今回はAS300の開発プロジェクトに携わった4名のメンバーに当時を振り返ってもらいました。

営業

営業

2019年入社

製品企画

企画

2017年入社

開発設計

設計A:機械系

2012年入社

開発設計

設計B:電気系

2017年入社

ー 製品について

企画:製品開発の基本的なプロセスとしては、まず、営業部が日々の業務のなかで介護現場のニーズを集め、それを取りまとめたものが要望として製品企画室にあがってきます。製品企画室では、その要望と介護現場のニーズをもとに製品のコンセプトや仕様、デザインをつくるところを担当します。それが設計課にわたり、具体的な機能や構造としてカタチになっていく、という流れです。 AS300に関しては、コンセプトとして3m×4mのユニットバスに収まるようコンパクトなサイズにすることをひとつの目標としていました。

営業:前身となるAS200が身長180cmに対応する比較的大型の製品だったのですが、私たちの営業実績からも、そのあたりの需要がそれほど高くないことがわかってきたんです。

企画:それで市場、つまり、必要としている要介助者の方や介護施設に合うサイズにしようということで小型化を図りました。ASシリーズ最小のサイズでありながら、身長180cmの方でも入浴できる広さを確保しているので“ルーミィ(roomy)”という名前がついたんですよ。

設計A:サイズに関してはこだわったというか、技術者として攻めた部分ですね(笑)。要求されている機能を満たしつつ限界まで1mmでも小さくしてやろうと思って、最終的にそれまでシリーズ最小だった従来機種より全長をさらに20mm縮めることに成功しました。

営業:介護施設によっては浴室が狭いところもありますし、コンパクトになったぶん介助する方の作業スペースを確保できますよね。
介護現場のニーズというところでは、今回AS300から新たに“腕置きサポート”が装備されたのですが、これは介護施設で働く方からいただいた声から生まれた新機能なんですよね。洗身時、前かがみになった際に身体を支えるための装備なのですが、お客様からこういったものが欲しいというアイデアをいただいて。

企画:営業部が現場の声をもとにまとめた要望についてそれが本当に必要なのかということを検討するのも私たち製品企画室の仕事なのですが、“腕置きサポート”については、お客様のニーズにマッチしたすごくいい機能なのでぜひ実現したいねと、私たちも企画段階からずっと推していた部分です。

営業:製品の特長としては他にも、シャワーチェアが“2 in 1”になった、つまり1つのシャワーチェアで椅座位(椅子に座る姿勢)と長座位(脚を伸ばした)の両方の姿勢に対応できるようになったのが画期的ですよね。要介助者の方のなかには、脚を曲げて座れる方と、脚を曲げることが難しいため膝を伸ばしたまま座られる方がいらっしゃいます。でもそれまで市場には“2 in 1”のシャワーチェアがなかったため、2つの姿勢に対応するにはチェアが椅座位用と長座位用の2台必要だったんです。それがAS300では1台で対応できるようになったので、他社製品と比較検討されているお客様には金額的な面でもお話がしやすくなりました。 チェアに関してはさらに、長座位姿勢モードでチルト(座面の角度を変えること)ができるようになり、ひとりひとりに合わせた12パターンの入浴スタイルが可能になりました。これ、営業としてはAS300における一番の推しポイントと言ってもいいくらい大きな特長なんですが、企画段階ではなかったものですよね?

設計A:そう、その機能はこちらから提案した部分だね。
製品開発においては、企画にあがってきた要望やコンセプトは満たしつつ、我々も技術者としてさまざまな提案をします。私は、言われた通りのままではいいものはできないと考えているんです。新しい提案をして、新たな価値を世の中に生み出していく、それが技術者としての使命だと思っています。まあ、要求されていることを実現するだけでもけっこう大変で、失敗も重ねつつでしたけどね(笑)。 長座位でのチルト機能については、実はある失敗がもとになって生まれたものなんです。浴槽の扉に関してうまくいかない点があって、まずそれを解決するために扉の形状を変更しました。さらにその形状を利用することで実現したのが、長座位でのチルト機能です。
以前、私がアマノに入社したての頃、介護現場を見せていただいたことがありました。その際に、膝を曲げることができない方が入浴されていたのですが、長座位の姿勢はチルトがない状態ではとても不安定だなと感じていて。そんななか、日常にヒントを見つけたんです。プライベートでプールへ行ったときにジャグジーに入ったのですが、底が平らだと長座位ではズレてきてしまう。それが、傾斜がついていると全くズレないし、姿勢としてもすごく楽で。その2つの経験が結びついて、長座位姿勢でチルトができれば体の不自由な方でも安定して入浴できるんじゃないかと思って、開発部の報告会のなかでプレゼンテーションし、採用してもらいました。

営業:チルトがあることでお尻の部分が重心として下がるので、介助される方の身体がすべりにくいんです。さらに姿勢も保ちやすい。介助においてはやはり事故を防ぐことが一番大事なので、すごくいい機能だと思います。
チルトのある長座位姿勢モードって、業界としても今までなかったんですよね。他製品と大きく差別化できる部分なので、営業としてもおすすめしやすいです。
それから、浴槽の扉に関しても、形状が変更されたことにより扉上部の開口が広がり、足先までケアできるようになっていて。全身がしっかり見えることで安全性も高まりましたし、お客様からも、拘縮のある方などに足の指を開いてマッサージしてあげることができると好評です。フォルムもすっきりときれいなデザインになりましたよね。

設計A:扉の形状から、チルト、そしてデザインまで最終的にうまくつながって。ぎりぎりのところまでみんながアイデアを出し合い、トラブルだったものを結果的にプラスに変えられたのはすごくよかったよね。
社内では営業部のメンバーが最もよく介護現場を見ていると思いますが、私はたまたま営業のお手伝いというかたちで現場を見て入浴の場面に立ち会えたことで、自分で見たことを新しい機能として提案することができました。技術者としてラッキーだなと思うのが、アマノでは、そういったチャンスがある。個人にある程度裁量が与えられているところにもやりがいを感じています。前例のない新しいことにも挑戦できるし、そうして成長していく楽しみがあるなと思いますね。

設計A:設計課では、製品企画室からあがってきた要求書や企画にもとづいて開発・設計を行い、具体的な図面や仕様に落とし込む作業を担当します。AS300の開発については、正直に言うと要求されていることに対してすぐに答えが出ないものばかりだったので当初は不安のほうが先に立っていましたね。

設計B:私もそうです。実は、製品開発において電気の設計をすべて担当したのはこの機種が初めてだったんです。だから、最初はどうやったらいいんだろうというところからのスタートで。いろんな先輩に教えてもらいながら、とにかく過去の資料を全部あさって、一日中ショールームにはりついていろんな機種を見ながらそのなかで勉強したりとか。設計が進んだ段階では、AS300の使用回数が一番多いのは自分だと言えるくらいに検証を行いました。設計者としては絶対に製品を完成させたいと思っていましたし、初めてプロジェクト担当者を任せてもらったことに応えたいという気持ちもあって、それが大きなモチベーションでしたね。試作までたどり着き、製品のカバーがついて本体としての完成形が見えたときには、ここまで来たんだなと感慨深かったですね。営業部からも、これなら売れるとコメントをもらって本当にうれしかったです。完成品が市場に出てカタログができたときには、持って帰って両親に見せましたよ(笑)。

設計A:たくさんの苦労もあったなかで、みんなにずっと言い続けていたのが、やり切ろう、ということでした。設計って答えがないんです。だから自分たちで考えるしかない。要求される仕様を実現するための設計もそうですが、今回は前例のない新しい機構を考えたこともあり、それを成立させるための試行錯誤も多く大変だったと思います。ただ、そこでやり切ることで、その苦労は最終的に、新しい価値を世の中に提供することにつながっていくんです。製品の強みにもなり、営業的にもアピールポイントになる。そしてもちろん、自分も力がつくしそのぶん自信がついて仕事がどんどん楽しくなっていく。
私個人としては、今回の開発はチームでざっくばらんに意見を出し合って進められたのがすごく楽しかったです。担当や立場が違ってもお互い対等であることで活発な意見が出てくると考えていて。そのなかで機械まわりも電気まわりもお互いにとことんこだわったし、ねばって出し尽くしてやり切って、結果的にお互い妥協しないで譲れるところと譲れないところをしっかりすり合わせた結果、いいものができたと思っています。

設計B:そうですね。どちらかというと自分は譲ってもらうことが多かった気がします(笑)。限られたスペースでお互いに寸法上の制約があるなかで交渉し合って、どっちが何ミリとるかっていう世界で。限界まで検討してぎりぎりのところで収めて成立させましたよね。
プロジェクト全体で4年半ほど、開発が動いたのは約3年間でしたけど、それぞれのフェーズごとに苦労があったぶん大事な学びがたくさんありました。

設計B:今回のような開発プロジェクトは、自分の仕事だけでは完結しない内容ですし、自分の思いだけでは成り立ちません。ひとつの製品を作るのにいろんな部署が関わりいろんな事情があるなかで、いろんな意見が出てくる。それが合わないときももちろんあって、全体として意思決定をする際には、自分も譲れないところはきちんと説明して納得してもらう必要があります。そのためには、設計者として何が最良なのかということについて確固たる軸を持っていなくてはならない。これはプロジェクトに配属されないとわからなかったことで、今回すごく学びになりましたし、これからの仕事においても大事にしていきたいと思っています。

企画:企画の段階でいえば、土台として根拠をしっかり築いておくことですよね。きちんと根拠立てて、まず何がしたいのか、そしてそのために何が必要なのかといったことを固めておかないと企画の仕事としては片手落ちになってしまう。そのことを私も強く感じましたし、今後の課題としてもとても勉強になりました。

設計A:みんな頑張っていたし、やり切ればちゃんと形になるんだと私は思いましたね。もちろん個人的にスキルアップできたこともそうですが、やはりそれぞれが一生懸命やり切れば結果が伴うんだという確信を得たことが私にとって今回一番の収穫でした。
また、やり切るためには、みんながそれぞれ役割を果たして活発に意見を言い合えること、そしてそのための雰囲気づくりも大事だということも改めて認識できました。

営業:私はみなさんのように直接開発を担当したわけではありませんが、入社して初めて新しい製品の開発に立ち会って、完成をとてもわくわくした気持ちで楽しみにしていました。モノづくりの現場で、ひとつの製品がどういったプロセスでできていくのかを見せてもらい、この場を含めて、開発に携わるみなさんの思いや苦労を知れたことは、今後の営業活動にも活きてくると思います。 AS300には、他にはない、この製品ならではの特長がたくさんあって、実際に導入された介護施設のお客様からも使いやすいとよろこびのお声をいただくことが多く、自社製品として誇りに思っています。